砂糖の世界史

サラリーマンのサラリーとは、塩(salt)からきている。

人間は生きていくうえで塩が必要だ。血液の塩分濃度を0.9%に維持していないと生きていけない。塩がなかなか取れなかった地域では塩は貴重だったので給料としても使われた。塩をめぐる争いは各地で起こり、人類の歴史に多大な影響を与えている。だが塩と同様に砂糖も人類の歴史に大きな影響を与えているのだ。砂糖がなくても人間は生きていけるが、そんな味気ない世界を人間様が許すわけがない。

まずサトウキビを栽培するには肥沃な土地と多大な労働力を必要とした。午後の紅茶(アフターヌーンティ)に砂糖を入れて飲む習慣はイギリスで生まれたものだが、あんな大変なものをイギリス人が直接栽培するはずがない。当時高度な文明を誇っていたイギリスはアフリカから黒人を奴隷としてカリブ海の島々に強制連行した。そこでサトウキビを作らせたのである。アフリカからカリブ海には奴隷が、カリブ海からイギリス本国には砂糖が、イギリスからアフリカには武器が渡っていく関係になったのだ。俗にいう三角貿易である。私たちが普段さりげなく口にしている甘いお菓子は砂糖のおかげで楽しめるのだが、砂糖にはこうした悲しい過去があったのだ。もし砂糖がなければどんな世界になるのか。

甘くないケーキ、甘くないチョコレート、甘くないカルピスウォーター、甘くないアイスクリーム。こういうものに現代人が耐えられるだろうか。一度砂糖の味を知ってしまったらやめられないのだ。
普段あって当然と思える物が、実は過去の大勢の人々の犠牲の上に成り立っているということを知っておいて損はない。現代人は歴史から学び、犠牲を出さずに何かを生み出すよう知恵を絞るべきだろう。日本人にとってあって当然と思えてしまうiPhoneやiPadの背後にある労働環境は大丈夫なのだろうか。

ところで「イギリスで産業革命が起きたがインドでは起きなかった」ではなく、「イギリスで産業革命が起きたがゆえにインドでは容易に起こせなくなった」と捉えるのがウォーラーステインの世界システム論である。椅子取りゲームのような捉え方だ。日本にその思想を紹介したのが川北稔先生である。私たちは砂糖から多くのことを学んで同じ悲劇を繰り返さないようにしなくてはならない。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

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