辞書は1冊だけ使っているという人は多いかもしれない。しかし、1冊で間に合うのは英検2級レベルまでである。それより先に進むと、類義語に意識がいくし、自分が知っている基本語の正確な使い方を知りたくなる。そのためには何を引けば疑問を解決してくれるのか、予め辞書の性格を研究しておく必要がある。三島由紀夫や柳瀬尚紀が言うには、「辞書は疑問が生じてから引いていては遅い。事前に辞書をよく読んで置き、どこにどんな情報があるのか頭に入れておくべきだ」と。
最近は物書堂から新しい辞書が続々と出てきている。その中でもPractical English Usage(通称PEU)はとてもいい文法辞書である。こちらをインストールすると新たに「英文法」という項目が増設される。基本的な語彙をジーニアスやウィズダムで引いたときに、もう一押し説明がほしいと思ったら、PEUにジャンプすると解決することがある。PEUは学習英和を強力に補ってくれる。
例えば、still notとnot yetの違いを知りたいとする。stillはnotより前に出し、yetはnotより後ろに置くが、ニュアンスは異なる。
She still hasn’t got a job. (Looking back: she hasn’t had a job for a long time, and this situation is continuing.)
She hasn’t got a job yet. (Looking forward: she hasn’t got a job now, but we’re hoping that she will get one.)
このようにstill notは過去を振り返り、「まだか・・」と肩を落としてネガティブな捉え方をしている。その一方で、not yetは未来を意識し、「じきに~するだろう」と前向きにポジティブに捉えているのである。
もう一つ例を挙げてみたい。unlessとif notの違いについて。
PEUには次のように定義されている。
Unless means “except if”; it is not used with other meaning of “if…not”.
つまり次のような文ではどちらでもいえる。
So we will meet this evening at 7:00-unless my train’s late. (=except if my train’s late.)
I’ll drive over and see you, unless the car breaks down. (=except if the car breaks down.)
しかし次のような文では交換不可である。
If my train isn’t late it will be the first time this week.
( Unless my train’s late it will be the first time this week.)
I’ll be surprised if the car doesn’t break down soon.
( I’ll be surprised unless the car breaks down soon.)
では、学習英和が全然物足りないかというと決してそうでもない。
ジーニアスにはPEUに載っていない貴重な情報もある。例えば、recentlyとlatelyについて。
recentlyは過去の1回の話について用い、latelyは現在まで継続しているか反復している話に用いる。
例えば、
She got divorced recently. (lately)
She has been living in this house lately. (recently)
という記述がある。この説明はPEUやウィズダムには見られない。
ではウィズダムはどうだろうか。
接続詞で様態のasを引くと、
as does A Aもそう(同じ)だがの項目に
He thinks highly of you. As do I.
(彼は君を大いに尊敬しているよ。私もだが。)
という例文がみつかる。一見するとSo do I.と何が違うのか分からなくなる。このasはジーニアスではas SVの解説がメインで倒置になる現象についてはさらっとしか解説されていないし、ピリオドで区切られてもいない。
ジーニアスでは例えば、
as節が主語と助動詞とbe動詞のみから成る場合では倒置が起こる。
I take the bus to work every morning as do most of my neighbors.ぐらいの紹介で済まされている。
辞書は1冊だけと言わずに、なるべく多く購入する方がいい。
極論だが、辞書によって疑問が解決され、その知識が人生を分けるかもしれないからである。