辞書は最重要投資先

辞書に初期投資したかどうかで絶大な差が出る。

言語学者の金田一秀穂氏が言うには、自分の感覚や想いをどこまで正確に言葉で表現できるかが重要で、言葉を1000しか知らない人は画素数1000のカメラで捉えた世界を、50000ほど知っている人なら画素数50000の世界を見ることになるとのこと。後者の方が当然見えてる世界は美しい。

では、知っている言葉を減らしていくとどうなるか。どんどん画素数が落ち、次第にモザイク画になっていく。そして最後は原色だけになる。

美しい世界を堪能するには言葉が必要。言葉を獲得するには、辞書が必要。そこでどんな辞書をふだん使っているのか、高校生に聞くと、「鉄壁とWeblioです」という答えが返ってくる。

単語帳とWeblioだけじゃ寂しすぎる。それはポカリスエットとスマホだけでサハラ砂漠に入ろうとしてるようなものだ。辞書の重要性を知るには、辞書を心から楽しんでいる人の文章に触れるといい。

翻訳家の柳瀬尚紀氏の「辞書はジョイスフル」「翻訳困りっ話」の二冊は辞書の魅力がコップから溢れ出るほどのエネルギッシュな文体で読者を引き込んでいく。

「ジョイスフル」から以下に引用してみたい。

辞書はジョイスフル (新潮文庫)

辞書は、引くだけでなく読むものだ。高校時代、ふとんのなかにもトイレにも持ち込んだ辞書がある。齋藤秀三郎著、熟語本位英和中辞典。筆者にとって、これは英語の恩師だ。英語はもっぱらこの辞典から学んだ。
たんに受験技術としてでなく、本気で英語を理解するつもりがあるのなら、この辞書を勧める。とくに地方に住んでいて、受験プロの指導を受ける機会に恵まれない受験生には、筆者自身の体験から責任をもって勧めたい。そしてまた、幸い受験英語をかいくぐった大学生で、もし本気で英語を読めるようになりたいという読者がいれば、やはりこの辞書の熟読を勧める。あるいはまた、幸い入社試験をかいくぐった若い社会人で、もし本気で英語を読めるようになりたいという読者がいれば、やはりこの辞書の熟読を勧めたい。これは、それほどすごい英和辞典なのだ。
これほど真っ黒に汚した辞書はない。といっても筆者はけっして優秀な高校生だったのではありませんぞ。これほどページというページが真っ赤になった辞書はない。といってもまだ痔の鮮血は知らない頃、つまり赤鉛筆や垢鉛筆で印をつけたのです。
英文が読めるようになるには、前置詞をものにしなければならない。このことが、しかし、なかなか理解されないようだ。ここではゆっくり説明するひまがない。だから、もう一度大きな声で、この場合は16ポイント活字でいう。
英文が読めるようになるには、前置詞をものにしなければならない。そして熟語本位英和中辞典を熟読すると、そのことがじわりじわりとわかるのだ。

 

次に「翻訳困りっ話」からだ。
翻訳困りっ話(ぱなし) (河出文庫)

時代には齋藤秀三郎の「英和中辞典」、もっぱらあれを読みました。参考書もあれやこれや、あせって手を付けて、いま考えると佐々木高政「和文英訳の修業」、それと同じ文建書房から出ている吉川美夫「英文解釈法」ですか、あの二冊は最高の物です。受験参考書なんてものを越えた名著です。年齢に関係なく本気で英語が読めるようになりたい人には責任をもって推します。少なくともぼくには、あの二冊を通ってきたという手ごたえのようなものがいまも感じられるんです。齋藤秀三郎の「熟語本位英和中辞典」は、いわば、ぼくの骨髄みたいなものです。極端にいうと、あの辞書を読みつくしたくらいの人でなければ、その人の英語を信用できない、つねづねそんなふうに思っています。

柳瀬氏の本を読んで圧倒されたあとに、氏に向かって「辞書はないです。単語帳とWeblioだけです」とは言えないはずだ。

辞書は電子辞書を持っていれば十分と考えてる人もいるかもしれないが、電子辞書のあの小さな画面では辞書の良さをフルに発揮できない。

大学に進むなら辞書は、
「紙の辞書」「電子辞書」「辞書アプリ」これら3つの媒体をすべて揃えるべきだ。

電子辞書は英字新聞を読んでいるときに難しい単語に出会ったら、意味だけサッと調べるのには向いている。しかし、that、as、the、whatなど、簡単な単語を調べて例文までジャンプして読みたいと思わないはずだ。英文和訳でasの意味が分からず、電子辞書で「名詞限定のas」と「関係代名詞のas」の違いが理解できるとこまでいくとは考えにくい。細かく例文ジャンプをしていくうちに嫌になるはずで、電子辞書しか持たないというのは、簡単な単語を引くことを知らないうちに放棄するのに等しいのだ。

紙の辞書と辞書アプリを購入すると例文まで一緒に見ることができる。そこでやっと目に入ってくる大事な内容がゴマンとある。辞書アプリでは類義語にすぐにジャンプして確認できる機能まである。middleとcenterの違い、includeとcontainの違いなど、アプリだからこそ気づくものがある。つまり巷で「ジーニアスは良い」「ウィズダムは良い」と言われても、どんな媒体で単語を調べるかでその辞書の良さをどこまで引き出せるかが決まってくるのだ。それぞれの長所と短所を述べると、

電子辞書
長所
起動が早い。バッテリーはEneloopを使えば減りを気にせず電源をオンにしたままでいられる。難しい単語の意味だけを確認するには非常に便利。英字新聞や洋雑誌を読んでいるときに電源をつけっぱなしにしていると活躍する。

短所
ジャンプ機能で例文を細かく見にいくのがしんどい。

紙の辞書
長所
単語との偶然の出会いがある。読むこともできるし、目にやさしい。ボールペンやマーカーで書きこみができる。主に簡単な単語(中学で習う基本動詞、冠詞、代名詞、助動詞など)の項目を「読む」と意外な発見がある。難関大学ほどそこで得られる基礎知識が点数を左右するように作られている。

短所
持ち歩くのに重い。

辞書アプリ
長所
一覧性に優れている。文字の大きさも変えられる。類義語など、ページをめくることなく、すぐにジャンプして確認できる。電車のなかでもすぐに調べられる。便利なのでスマホに入れておくと引く回数が自然と増える。特に履歴をチェックするとこんなにお世話になってたのかと気付く。もし入れてなかったら、この履歴はゼロだったのかと思うとぞっとする。スマホやタブレットに「辞書by物書堂」をインストールしておくと、調べた単語を他の辞書でも簡単に閲覧できるようになる。

上級者はジーニアス、ウィズダム、オーレックス、ランダムハウス、リーダーズ、オックスフォード、コウビルド、エースクラウン、オックスフォードのコロケーション、類語辞典、すべてインストールして、ためしに”couldn’t be better” “could be better” “couldn’t be worse” “could be worse”などを例文検索にかけると、ヒットする辞書とそうでない辞書、また、辞書によって訳が違うなど、なるべく多くの辞書をインストールすべきであることを実感できるはず。社会人で英語を仕事で使う人は、物書堂の辞書は頑張ってなるべくすべて揃えるべきである。最高の投資となる。

短所
デバイスのバッテリーの残量(特にスマホ)が若干気になる。残量が20%以下だとそわそわする。

それぞれの長所を引き出すには、三つとも揃えるべきだと私は思う。特に物書堂の辞書アプリは見やすいのでぜひ購入したい。受験生で英語が得意なら、揃えるべきはジーニアス英和辞典第5版ウィズダム英和辞典第4版、そして研究社の新和英大辞典のアプリである。柳瀬氏の熟語本位英和中辞典は今の受験生にはさすがに難しいが、得意な人には読み物として非常に面白い。簡単な単語を引くと、前置詞との組み合わせでどんな意味になるか、しかも語源の歴史まで載っていたりする。CDが付属してるのでKokuyoの「シールはがし」も購入して、糊のべとつきは完全に除去すべき。とりにくい糊が布のCDケースの欠点だ。辞書は全部そろえると結構な値段になるが、数年たつと語彙力に相当な差が出る。それを実感するのに最もいいのは、辞書アプリの「履歴」を押してみること。もし買っていなかったらこれらを引いてなかったのかと驚くはず。辞書は高くても最初の出費の痛みに耐えて買うべきである。

 

PEACE OUT.

 

 


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